ロッカーアームが折れた事象 


電装系故障で預かったお客さまから故障の手がかりを掴む為、障害情報を伺ったところ、
以前、ロッカーアームが折れたことがあるとの事。 ヘッドカバーを外しただけで修理完了。
今回の電装系故障まで走れていたとのことだった。


(電装系修理後、写真を送っていただいた)
Gooseエンジン修理を長年請け負っている私でもロッカーアームが折れるというのは
初めてだ。 それも写真から吸気側のロッカーアームが折れていることが判る。

ボアが大きい車両のシリンダー内では、排気側の温度と吸気側の温度に差が出来、
排気側が高温となる。 デトネーションなどでバルブ周辺のダメージを受けるのは
通常排気側からと考えて良い。 ではデトネーションではないのか。

初期DR系エンジンと違い、ダブルのバルブスプリングであるGooseではあるが
バウンスだろうか? それともカムギアの合わせ位置が合っていないのだろうか?

原因が判っていないのにそのまま組んで走れていたというのが驚きである。

お客さまに詳しく聞いてみた。(以下に記す)
お客さま
冬だったので、アイドリングが安定しなかったり雪の日は突然止まったりしましたが普通に走っていました。
 調子悪いな、とキャブやアイドリングの調整でだましだまし乗っていましたが、大きな支障はありませんでした。

単気筒には効果的だと聞いたのでレデューサーを入れました。そしたら、やたらバックファイアが多くなったので
レデューサーのせいかと思っていました。

タペットのカバーを開けたのは特に大きなトラブルがあったわけではなくkamoさんのHPを見てタペット調整に挑戦して
みようと思ったからです。音も大きかったし。

いざ開けたらあの様。びっくりしました。あまりの事態に呆然としてしまい、そのまま閉じて2〜3日走ってしまった程です。

だからいつから折れていたのか本当にわからないのです。

ロッカーアームの断面もなんか角が取れていたので大分乗ってしまった気がします。バルブがひとつになることで流速が上がった?

翌週、やはりいけないとロッカーアームを交換しましたが中古だったのでカムとの当たり面が摩耗でえぐれていました。
3バルブよりはいいかと現在まで使っていますが馴染んでタペットクリアランスがひろがったのだと思っています。バックファイアはなくなりました。

これだけは実体験から言えるのですが、グースは3バルブでも走ります。ただ7000rpmまでしか回らなかったです。現在は8000rpm以上回ります。
kamoレデューサーって・・・電装系修理時も付いていたよ。
マフラー・キャブ・エアクリーナーが純正でバックファイヤー。キャブセッティングまで純正なら何かおかしいね。 PITでは油冷(特にGoose)にレデューサーは付けない方が良いと話している。 以下で話そう。
kamo朝のラッシュの電車内をシリンダー。 電車の扉は吸気バルブ。 通勤利用者を混合気としましょう。
何らかの事情で目の前の扉が開かず隣の扉が開くと開かない扉側からも開いた扉の方に人は集まり、何とか
乗ろうとするでしょ。 一定期間しか開かない扉では乗れる人数が限られちゃうんです。 バックファイヤーが
出だした頃がロッカーアームが折れた頃。 負圧に対して混合気の吸入量が減って薄いセッティングになって
しまった。 

レデューサは電気で言うダイオードみたいなもの。判りにくいかな?1方向にしか流れないようなイメージで、
オフ車のタンクに付いているワンウェイバルブも同じだね。 何となく判ってくれればいい。
レデューサーはブリーザーホースに付け、ピストンが降りる時のエンジン腰下の圧力を逃がし、ピストンが上がる時、
ブリーザー側から入ってくる外気から気流の乱れを正そうというものだと認識している。 オイルポンプを2つ持つGoose
で高回転を継続すれば、レデューサー内のコマの密閉精度が高いと腰下が真空引きしているようなもので、ポンプから
のオイルの流れも悪くなり、ポンプ自体の動きも重くなると考えた。 ポンプとロッカーアームまではカムチェーンで繋がって
駆動しており、 クランク側は薄い燃料で軽いスロットルのスナップで回転がやたら上がる。 それにバルブが付いていけ
なくなる。 これっぽいね。  

このお客さまの腰上O/H依頼を受けたので内部状況を確認していこう
350ccでもエンジンを下ろさず作業は可能だが、エンジンを傾ける必要がある。 ボルト1点止めにし傾けるのだが、フレームが錆びていて14mmのソケットが入らない。 今月はこんな状態の車両が2台目だ。 ボルト側は何とか掴め抜くことができた。
虫歯治療のようにリューターで錆を削り落し、ブルーメタリックのタッチペンで応急的な錆止めをした。 マグネット側は発錆が酷く剛性が下がることを心配し、錆をすべては削れなかった(写真は途中で取っています)

ナットはフレームと同化し、錆びていたため交換した。
タペット調整カバーを裏返すと吸気側だけ干渉傷が目立つ。 ロッカーアームが折れていたからだろう。

ヘッドカバーを外し裏返すとロッカーアームがありえないくらい変磨耗していた。 タペット音が大きいと注意したが、一度ロッカーアームを交換した車体とは思えないほどだ。

プラグのネジ表面も艶があったが、クラウン部も真っ黒で艶ありだ。 カムは作動面が削り取られている。

オイルが上がっている。軽い焼付だ。

ヘッドはオイルが行き渡っていないようにも思えたが、カムの軸受け部分は正常だった。
オーナーからシートカットしたヘッドを渡されているのでこれに変えれば・・・・。これが始めにロッカーアームが折れたヘッドで、たぶん、ヘッドだけ中古で手に入れて交換したんだろう。 中古パーツの時からロッカーアームはあんなに磨耗していたのだろうか? そうでは無いと思う。 タペット調整もできていなかったのだろう。 後々、確信に変わるのだが。
予備にと清掃したのだろうが、かなり熱が加わっている。マフラーのボルトも折れて抜けなくなっている。 最大の問題はボアアップもしていないのにスキッシュエリアの壁面を削っていることだ。 どうしても使いたいか確認し、無理でなければという答えだったのでマシな左上のヘッドを使うこととした
清掃前と清掃後だ。 オイルを含んでいるので汚れがしつこく付いていた。 特にポート研磨は行わず、純正の形状のままとした。 やるべき事がたくさんあるからだ。 ここにお金をかけていられない。
バルブヘッドを叩きすぎたのだろう。ヘッドがつぶれ、バルブガイドに引っ掛かりバルブが抜けない。 棒やすりで面取りして何とか4本抜けた。 抜いたバルブは真っ黒で艶あり。 計測するまでもなく曲がっている。折れる前にO/Hできてよかった。
バルブは交換し、面だし後組み付け。

セルモーターもかなり汚かったのでO/Hもしていないだろう。 分解し、カーボンを落とした。 ブラシは交換するにはまだ早い状況だった。
真っ黒だったシリンダーをホーニングすると爪が引っ掛かるほどの縦傷があった。(左端写真シリンダー内下側に写真では薄く見える縦線) ペーパーで削るにもかなり深い。 オーナーに相談し右側のPIT在庫シリンダーを使うことにした。
オイルの燃えカスが多く堆積し、綺麗になるまで時間がかかった。 ピストン交換も考えたが計測結果は使えそうだ。 同じものに見えない。  ピストンリング等は当然交換する。 
コンロッドも酷く焼けているが引っ張ったことろ、大端部のメタルは死んでない。 交換するかオーナーに確認したところ、今回はこのままで行くという。 もう一回熱を持たせると危険である。

組んでいく上で抜けないボルト、ダイスでねじ山の錆を落としてから組まなければならないボルトが多数存在し、かなりに時間と労力を使った。 新品のボルトなどに変えたいところだが外装も傷みが酷い。 直すのにお金が掛かりそうなので、手間だがそうするしかなかった。
エンジン始動。 暖気しながらPITを片付け。 慣らしとテストで自宅へ持ち帰る。 停止後、オイル漏れのチェックをする。試乗で判ったが、右ハンドルが純正より高い。 マフラーが内側に押されてスイングアーム当たっていた。(聞き出したが)右側に立ちゴケしたのか、ハイサイドで転倒し部品を交換したから現状なのか不明だ。 右ステップ、ブレーキレバー位置にも違和感を感じる。 見た目より前に性能を元に戻すことが優先されそうだ。
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