SACS
(SuzukiAdvancedCoolingSystem)

1984年9月ケルンショーで発表されたGSX-R750が原点である。  その油冷開発時の話を、生みの親である元スズキの横山悦夫氏にバイカーズ ステーションが取材し、スズキの油冷特集を行っている。(2001/5 N0.164) 月刊誌で読み廃れては勿体無い内容だ。 そこで、気になる情報を掲載することとする。
 ’80年代ごろからHY戦争が始まり、ホンダやヤマハには当時技術部に、スズキの5倍も3倍も人員がいたそうで、全ラインナップを作る思考があった。 スズキはお客のニーズを優先した人気商品でつなげる方針をとり、RG250γ・GSX-R400を造った。 しかし、3年続けてヒット作を作れといわれていたし、ヨーロッパから750ccのスポーツバイクを造って欲しいという話もあった。 当時すでに100ps規制の国がヨーロッパにはあって、他社の750は85か95psで販売していた。 しかし、「規制値があるならそこまで出してやっていいだろう、750で100psなら軽くて売れるし、24時間耐久レースでもいい成績が挙げられる。」 そこで馬力は100・車重は156kgという目標を建てた。(出来る訳ないと言われたが実際152kgで造った。 それまでの750は220kg程度だ。本文は大変面白い余談が書かれているが、それはこの号を買って読んで頂きたい) ヨーロッパ向けに造ることが念頭にあり、当時の輸出部長が企画書に750Wと書いた。 その“W”って何だと聞いたら、水冷という意味だといい、“そうか水冷か”と思ったが176kgの目標に対して当時の技術を水冷でやると重くなってしまうから、「やっぱり空冷にしよう。」となった訳です。 ところが、空冷750で100ps出すと冷却が追いつかず、悩んだそうです。 その時、アメリカの戦闘機ムスタングP-51の話が出て、 そのレシプロエンジンはリキッドクールド(液冷)だったと聞き、バイクに置き換えた 「水は液の一部でしかないんだと。 じゃあ、他に液体はないのかって考えたら、あるある、てめぇが液体だってエンジンオイルが! じゃあ、それを冷却に使えばいいだろう。」という発想が生まれたのです。
 当初は単にウォータージャケットにオイルを通すようなことも考えていたそうですが、スペース的に厳しかったよう。 しかし、水を使わずオイルだけなら通路を分離する必要がなくなり、スペースが格段に空き、大量のオイルをシリンダーヘッドにかけたら良いのじゃないか。 細い穴をとろとろ湯を流すよりも、上からダーっと吹き付けるほうが面積は広いし、熱境界層が破壊されるから温度が下がるに決まっている。 “夏の暑い日にウチワで扇いだら涼しいのは、皮膚の上1mmか2mmのところにある空気熱境界層を取って顔の熱が空気に伝わりやすくするからなんだ”と婆ちゃんに教わったことがある。 また、風呂焚きするとき、途中2.・3度かき混ぜると早く沸くことも教わった。 そういった日常の知識が活かされたということでした。 (比熱は水1に対してオイルが0.1と小さい。「だけど、狭い通路で淀んだ水よりも勢い良く吹きつけるオイルのほうが熱境界層は破壊しやすいし、相手がシリンダーヘッドで面積が広くできるから、計算は出来なかったけどもっと冷えるに決まっている。」と考えたのです。) 
左図(GSX-R750)のような潤滑系統です。 

この号には運輸省に“油冷”の名を認めさせたエピソードが載せてあります。 人間性も見えてなかなかいい特集でした。 プロジェクトXを見たような感覚になれますよ。
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